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  • 弁護士山越悟のつぶやき ~格差・貧困の原因と生存権~ 7
  • 投稿日:2018年8月10日

・・・前回からのつづきです・・・・

 

 生存権の歴史と保障の程度

 

どの理由が優先され、どの程度の保障がなされるかは、時代状況によって変わりうるのです。

 

まず、社会全体が貧しい時代は、生存権の保障は弱くなります。生存の保障に当てる富が少ないからです。原始共産主義社会は、貢献力にあまり差がなく、ストックもきかないので分配は平等主義的ですが、生存権の保障はしたくてもできなかったのではないでしょうか。江戸時代でも、特に貧しかった東北地方等では悲惨な状態がありました。

 

生存権を保障するためには、科学技術の進歩による生産力の増大、ストック技術の進歩等の条件が必要だったと思います。こういう条件が整うと、犯罪を防ぐために刑罰よりも生存権が優れている状況が生まれ、一般市民の保険として生存権を保障する経済力的余力が生じることになります。

 

また、皮肉ですが、戦争状態では兵士の家族の生存を確保することは絶対的に必要なので、格差は狭まり福祉は厚くなります。

 

結局、現代において生存権を最もバランス良く保障できるのは、民主主義社会で中産階層が多数を占める場合だと思います。中産階層は上昇も下降もあり得るので下降した場合の保険として生存権を保障するからです。富裕層には保険は不要ですから、生存権の意味も保障の程度も違ってくるように思います。

 

 

 世界平和と生存権

 

生存権の存在理由として、「犯罪と騒乱の防止」を最悪の表現と言いましたが、個人の尊厳も博愛もないくそリアリズムという感じがします。

 

しかし、この理由が全くの他人間である国際社会において、国際平和をもたらすということに結びつくと思います。

 

そもそも、ホッブスが「万人の万人のための闘争」を指摘して国家の必要性を説き、カントが永遠平和のためにで「最も悪魔的な民族ですら国家を必要とする」と指摘して国際的な連合が必要だと言いました。

 

皆にとって生命を維持すること(自己保存)が最も大切です。生存の自由を守るために国家が必要であり、国際平和が必要だということで、そのためには世界政府が必要だと言うことです。国家や国際的政府の必要性は、くそリアリズムから説明するのが最も皆が納得する説明なのです。

 

さらに、国際的に社会権的な生存権を保障できるようになれば、国際犯罪も減り、紛争も戦争も減り、世界平和に近づくことはあきらかです。そのために国際的に生存権を保障する必要はあるのです。

 

しかし、抽象的にはわかるが、具体化するのが難しい。生存の自由ですら難しいのに、社会権的生存権はなおさら難しい。各国の利害は様々であり、各国は国民に対する義務を一次的義務にせざるを得ないからです。

 

 

・・・次回(最終回)につづきます。






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