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  • 弁護士山越のつぶやき vol.6~ブラックジャックは何故治療できないか?④~
  • 投稿日:2016年3月12日

 

 残業代を請求される事件も「一般化の論証」と似た場合があるかもしれません。「払える給料は最大限に払っているし、これ以上払ったら会社がつぶれてしまう。うちは(私は)、搾取していないし、ブラック企業ではない。」という言い分が出ることがあるのです。

 しかし、労働基準法には反しますからこの言い分は通りません。労働基準法は、所定労働時間と時間外労働を明確に区別して残業代等を支払うよう定めているからです。つまり、総額で支払えるだけ支払っていても、賃金の内容として残業代が明確に算定されていなければ、長時間労働を強いる危険があるからです。残業代割増しによって、長時間労働を抑制しようとする法の趣旨からは、やはり許されません。

 ただ、問題は、企業によってはやはりそれ以上払えないということは、ブラック企業は別としてですが、現実にあるわけです。労働基準法を守らなかったのが悪いとは言え、企業がつぶれたらもとも子もないという現実はあるのではないでしょうか。そこでどうするかです。どうやって、つぶさないで適法企業に導くかが問題になります。

 

 ところで、最高裁は、定額(みなし)残業代制度を認めています。これは、あらかじめ一定時間の残業代を織り込んで給料額を決める制度で、トータルの賃金額を尊重しつつ、基礎賃金部分と残業代部分に振り分けることを認めるものです。ただし、残業代の計算基準が明確で基礎賃金部分と区別できなければなりませんし、予め定めた計算式で定額残業代を超える場合には、当然残業代を払うことになります。

 でも、そうだとすると、企業にとって実際の残業が定額部分に充たない場合は過大な支払になるし、意味はないことにもなるようにも思えます。しかし、これ以上払えないという総額を基準にして制度を作り直すこと、つまり端的に言えば基礎賃金を下げることを認め、他方で労働者の賃金総額は下げず、かつ残業代を支払わせて時間管理方式に移項させる方法なのだと思います。

 

 これは、所定労働時間を決めてから残業の場合は残業代を払うという方式からすればかならずしも好ましいとは言えないようにも思えますが、総額の上限は現実にあるのでこれを尊重しつつ、このような賃金制度の作り直しなら世間がまねても悪くならないし、むしろ時間管理方式に移行させる手段になるし、悪用もされないだろうという判断があるように思います。これも問題はあるがつぶせない業者を活かしつつ、世間が真似しても悪くならない基準を作るという「一般化の論証」との限界を画するものかもしれません(この理解は誤解かもしれませんので、要注意です。定額残業代制度には、残業代計算の労力をある程度省いて事務処理を簡略化し、中小企業の事務作業を軽減しつつ法に従わせるという面もあるようにも思えます。実際、業態によっては、割増賃金計算はかなり複雑です)。

 ただし、基本給等の基礎賃金を下げることになりますので、不利益変更、最低賃金をクリアーする必要があり、残業規制(36協定)等の条件もクリアーしなければなりません。なお、定額残業代より実際の残業代が低い場合定額との差額の性質が問題になりますが、これは基礎賃金でなく残業代だという他ないでしょう。そうでなければ、差額を基礎賃金に組み込んで残業代の再計算をすることになりますが、これでは定額残業代を認めた意味がなくなります。

 

 一般化の論証の適用場面で難しいのは、具体的な話しに出て来る人々は、個人的には良い人であったり、さほど悪いとは言えない人だったりすることです(悪性が顕著な殺人事件等とは違います)。また、確かに、世間には「悪用する悪い人」も現実にいるということです。

 何故なんでしょうか? 当たり前なのでしょうか?

 

 さらに突っ込んだお話しは、機会があったらまた致します。

 

弁護士 山越 悟






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